雄々しき獅子と すばしっこいウサギ、
 一体どこで入れ替わるものなのか。

          〜フォーチュンケーキは 甘甘でvv篇

    幕 間



何とも唐突な依頼を受けて立ち、
見ず知らずのお嬢さんたちへのはなむけにと、
腕によりかけての丁寧に、
朝っぱらから美味しいカップケーキを焼いた最聖のお二人。
数時間ほど経ってから、イエスのスマホへ届いたのは、

 カップケーキは大好評で、
 講堂じゅうが割れんばかりの歓声に包まれて、
 そりゃあ大騒ぎになっちゃいました、という

それは嬉しそうなご報告であり。

 「やったね、大成功だって♪」
 「良かったぁ〜。」

頑張った甲斐があったねと、
コタツでのほほんと向かい合ったまま、笑い合った二人だが。

 「さすがはブッダだよね。
  何でもこなしちゃうんだもの、私まで誇らしいったら。////////」

こういうのも“リア充”なんだよねと。
頬杖をつくよな格好で頬っぺを手のひらでおおいつつ、
憧れの眼差しになってしまうところは、
何だか、あのね?
天界にいたころの、どこか弟分ぽかった彼を彷彿とさせもして。

 『わあ、これってブッダが描いた曼荼羅なの?
  え? どうして残しておかないの?
  こんなに綺麗なのに勿体ないよぉ。』

 『本当に達筆だよねぇ。
  あ、ダメだよ。これは私が貰うの。
  川になんか流させないんだから。』

自分は何も出来ない身だから、せめてブッダフリークでいさせてなんて。
当時のブッダには今一つよく判らなかった言いようを持ち出しては、
何でも出来て凄い凄いと
大好きな兄様の手になる砂絵や書を、それは褒めてくれた無邪気な彼で。

 “でも…。”

健康的でアウトドア派、めっきりリア充な誰かさんのふぇいすぶっくを
異様に怖がる一面を見せつつも、

 “イエスだって、結構 行動的な方じゃないかなぁ。”

ブッダとしては、
身びいき抜きにそうと思える機会が、結構多い今日このごろ。
こたびの女子高生さんたちからの大胆な“お願い”にしても、
ご町内という狭いエリアだとはいえ、
交際範囲が広いからこそ降って来た代物なのだし。
誰とでも屈託なく接する彼なればこその、縁というものには違いない。
運動やアウトドア・レジャーの部類は、
体力がないし疲れるからあまり進んでしたがらぬとは言え、
美容院のパピヨンのメグちゃんといい、
仔猫を拾って難儀していたお嬢ちゃんたちといい、
思わぬところに小さなお友達もいっぱい作っておいでだし。
切っ掛けこそ、思い切りインドアの ネットつながりとはいえ、
特撮ファンのお友達とは、
オフ会を設けてじかに逢う機会も頻繁に持つほどだし。
そも、それが人性なのだか、アガペーの導きか、
気がつけば 人に囲まれていることが多いイエスであり。

 “そういえば……。”

無を求める精神修養のため、
様々な修行に身をおくことも少なからずで、
その間は孤高の中に身をおくせいか、
実は一人で過ごすこともさほど苦ではないブッダと違い。
同じ部屋にいるのに別々なことをしていると、
ついつい相手が気になるものか、
構ってほしいなという空気を醸すのはいつもイエスのほうだし。
ちょいと拗ねたブッダが、トイレへ籠もったりしようものなら。
閉じ込められた訳でもないのに、
お仕置きされた仔猫みたいに落ち着かなくなってしまい。
ドアへカリカリと爪を立て、
一人は寂しいよぉと、
出て来てよぉという懇願を始めてしまう彼でもあって。

 「……? ブッダ?」

掛けられたお声に“どうしたの?”という響きを感じ、
ああいけない、考えごとしていたねと我に返ったブッダだが、

 “あ…。/////////”

そっかと、今頃 気がついた。
ブッダフリークでいさせてと言ってた、
あの遠い遠い昔日から、恐らくイエスは恋心を既に抱えてて。
野にあれば小鳥や聖獣たちが集まって来る自分と同じほど、
町角や辻に立てば、
救いを求める迷える人らが自然と集まる、
アガペーの申し子、神の子イエスだというに

 唯一、彼のほうから
 こっち向いてとお顔を向け続け、見つめ続けてたのが

 “……私、だったってこと?/////////”

大好きだよと、ちゃんと囁いてくれる人。
愛しているよと、その懐ろへ
大切そうに掻きい抱いてくれる人。
直接の告白こそ、ほんの半年前の話になるけれど、
アガペーと同じくらい大きな“好き”を、
ずっとずっと抱えていたというその一端を、
実は隠しもしないでいた彼なのだと。
今ようやっと気づいたなんてねと、
これでも内心で愕然としちゃったブッダであり。

 『ごめんね。私ってばブッダを泣かせてばかりいるね。』

こたびの騒ぎの一番最初、
勝手に勘違いをしちゃっただけだというに、
しょんもり消沈しちゃった愛しい人だとあって、
あわわと慌てて、
取るものもとりあえずと宥めてくれた優しいイエス。
しかもそのまま、

 『我慢強い人だのに、
  それが不安で居たたまれなくなるなんて、
  よほどのことだものね。』

どんなに辛かったかを酌んでもくれたのは、
ごめんなさいや励ましどころじゃあなく、
もはや甘やかしの域だったかも知れぬ。

 「……イエス。」

私が情けなかっただけだのにね。
しゃんとして自信を持っていれば、
何てことなかった出来事だったのにね。
おにいさんぶってたのが恥ずかしいほど、
よそ見なんかしないでなんて
どこ見て言ってるのと言われちゃうだろうほど、
ずっとずっと見守られていたんだのに…。

 「??」

今だって、心配ごと?と案じてくれたようなもの。
不意に何ごとかへ気づいてしまったブッダなのへ、
どうしたの?と、
冴えた眼差しをひそめ、
どこか案じるようなお顔になったイエスを見つめ、

 「な…。」

何でもないと言いかかり、ああそれじゃあダメだと唇を咬む。
何でもなくなかったくせに、何を強がっているものか。
我慢強い人と言われつつ、本当はああまで動揺したくせに。
そうやって強がって、またぞろイエスをひどく慌てさせちゃうの?

 「…あのね?」

お菓子の本を広げていた上で、
その白い手をせわしく組み直しつつ、
どう言えばと言葉を探していたブッダだが、

 「私ってば、素直じゃなくて。
  時々どうしようもない強がりを言うでしょう?」

え?と、イエスが玻璃の目許を大きく見張る。
結構な大仕事を終えたばかりだってのに、
何を突然、生真面目そうな告白を始めるのだろかと、
さぞかしびっくりしていることだろう。
そのまま何度か瞬きをする彼なのを見やりつつ、
もどかしい想いごと、重い口を押し上げて、

 「…あの、あのね?
  またいつか、意地を張ったり強がった裏返しで、
  イエスのこと困らせてしまっても、」

瑠璃色の眼差し、ついと持ち上げると、
真っ直ぐに見やるは、それはそれは大切な人。
一体何を言われるものかと、
案ずるようなお顔の彼へ、えいと思い切って伝えたは、

 「どうか私を嫌いにならないで。」
 「…えっ?!」

ああもう、そうじゃなくってと。
ますますと面食らってしまっただろうイエス以上に、
内心で大きく狼狽し、ひどくあたふたしてしまう。
どれほどの経典を読破していても、
他でもない自身の気持ち、盛らず足らず言い切る言葉を知らないなんて。
何て役に立たない蓄積かとまで決めつけて、
そんな自分へギリギリと歯咬みをしながらも、

 えい今度こそと、
 眸をぎゅうと瞑ってのその上、
 お顔を真っ赤にし、絞り出すよに言い放ったのが、


  「ずっとずっと一緒にいてね?///////」







今後しばらくは唐突さでイエスを詰れぬほど、
そりゃあもうもう、
いきなりの突発的な大告白をされてしまって。
日頃それは落ち着いていて聡明な人が思い詰めると、
こうまで極端なものなのか。
いや、それはこの際 おいとくとして。

 「あ……や、あの…。///////////」

 うあどうしよう、耳が熱いし胸も苦しい。
 早く何か言わなくちゃいけないのに、
 息が急いてて、声が出せない。
 さてはこれもマーラの仕業か、
 それともルシファーの意地悪かっ。

 「……いえす?」

真っ赤になったブッダの気持ち、判るの凄く。
心配だよね、怖いよね?
こんな大きい、好きとか愛してるとか言った後って、
早くお返事ほしいよね?
ああもうっ、どうしてくれようか。
顔まで硬直してるのが恨めしいっ。
胸元をがっしと鷲掴み、
震える呼吸をすうぅうと何とか吸い込むと、

 「わた、わたしも……っ。」

あああ、顔が熱いの、どうしたんだろ。
言うこと聞いてよもうっ、と。
ぐいとセーターを引いたら、手に握り込む格好で触れたのが硬い感触。
あ…と思ったその途端、
それまでの硬直がふっと解けて、

 「勿論だともっ。」

勢い余って 舌を咬みそうになったほどの急稼働。
口唇をうにむにと咬みしめて、
何とも不安そうにしているブッダの手を取ると。
ああなんて優しい手かとうっとりしつつ、
愛の申し子、アガペー以上の愛を込め、

 「ずっとずっと一緒だよ? 二人でずっとっ。」

祈るように誓うように、
いいね?判った? きっとだよ?と、
真摯な眼差し差し向けて、
しっかと言いつのったイエス様だったのでありました。







       お題 D“ずっと一緒にいてね”





BACK/NEXT


  *一体どこの“キンタロー。”さんでしょうか。
   あ、あの人の場合は“私を嫌いになっても…”だったかな?(笑)
   ここんとこ、妙な睡眠状態なのも相俟って、
   何か変な勢いで書いてます。

   ブッダ様の不安は、
   浮気を恐れての焼きもちじゃあないと思います。
   自分からしがみつけない、自信のなさから来る心配。
   いつもいつもイエス様から、
   素敵な人なんだから自覚してと、ああまで言われているのにね。
   これだから初心なお人は…と、
   笑って許してやったってくださいませ。(おいおい)


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

bbs ですvv 掲示板&拍手レス


戻る